何千万円という借入を行う住宅ローンでは、
より金利が低い変動金利を選択する人が多い傾向にあります。
少しの金利差が、総返済額で考えると何十万円もの差を生み出す以上、
金利を重視するのは当然かもしれません。
しかし、変動金には金利上昇という注意点があります。
低金利が長期化する中、若い住宅購入者の中には
金利上昇の具体的イメージを持てない人も多いと思います。
バブル期には誰もがバブル崩壊を予想できず、
ほとんどの家庭が家計に大きなダメージを負いました。
しかし、冷静に準備、対処を行った一部の人々は、
損失を最小限に抑えることができたのです。
変動金利の金利がなぜ低いのか?
それは、「金利上昇時のリスクを借り入れ側が負うから」です。
将来、金利上昇が起きるか否かは誰にもわかりませんが、
予めリスクを認識することで、損失を最小限に抑えることも可能になるでしょう。
変動金利の抑えておきたい基礎知識から、
金利の変動リスクとはどの程度のものなのか?
初心者にもわかりやすく解説したいと思います。
住宅ローンでシェア1位の変動金利
住宅金融支援機構の調査によると、
2011~2014年度の新規借入は変動金利が最多となっています。
低金利の影響で、全期間固定型や
2~10年間の期間固定型などもシェアを伸ばしていますが、
依然として変動金利が借入者数5割超の実績を誇っています。
変動金利は、金利が上昇するリスクはありますが、
固定金利と比べ金利が低いのが魅力です。
ここ10年程度、金利が下がり続けているため
金利上昇の懸念が薄れていることも変動金利が人気の要因でしょう。
また、年々住宅ローンの借換え手数料が低くなっています。
マイナンバーやインタネットの活用で契約書を省略し、
印紙代を不要とする金融機関も増えてきました。
手続き自体も、インターネットやスマートフォンの普及により利便性が増しています。
また、住宅ローンや借り換えに関する情報提供や
借り換えサービスも浸透してきました。
住宅ローンの返済計画を柔軟に考えられるようになったことも
変動金利人気の隠れた理由かもしれません。
全期間固定金利とはどんなもの?
変動金利と対極にあるのが全期間固定金利です。
全期間固定金利といえば日本住宅支援機構の「フラット35」が代表ですね。
フラット35の特色として、安定感は抜群ですが、
団信保険料が別に発生する(2017年10月より制度変更)ことや、
住宅ローンを組む際に「適合証明」という
物件の品質を証明するための検査が必要になったりします。
諸経費や手続き面での煩雑さがフラット35の難点ではありますが、
もちろん、それを補うだけの魅力ももっています。
- 住宅要件を満たせば金利優遇が受けられる「フラット35S」
- 返済期間が20年以下だと金利が優遇される「フラット20」
- 当初親が返済し、その後を子供が引き継ぎたい、という場合の「親子リレー返済」
その他、中古住宅を購入し、
自分でリフォームやリノベーションを行いたい場合に利用できるリフォーム一体型や、
親の返済を子供が引き継げる親子リレー返済などもあります。
通常とは異なる借入でも利用できる住宅ローンが用意されているため
条件が当てはまるならば検討の余地があるでしょう。
商品性でも比較検討しよう
住宅ローンは大きく分けて変動金利と固定金利に分けられます。
金利の特徴を理解することも大切ですが、
金利以外の商品性も知っておくとより良い選択ができるでしょう。
金利差による総返済額とともに、
商品の特徴が自分に合っているのかどうかも重要な要素だからです。
例えば、変動金利を検討していたが、
中古戸建てをリフォームして購入するのでリフォーム費用も組み込める
「フラット35リフォーム一体型」に決定した……などの場合です。
知っておきたい変動金利の特徴
一般的な変動金利は、半年ごとに金利の見直しを行います。
しかし、頻繁に返済額が変わると返済者は対応に苦慮するため、
返済額の見直しは5年ごとです。
金利の見直しスパンは半年ですが、返済額に反映されるのは5年ごと。
なので、金利が上昇したからといってすぐに返済額が上がるわけではありません。
5年間の金利動向により、返済者は次の返済額がどうなるか予測することが可能です。
変動金利の返済額は急上昇しない
さらに、5年ごとに見直される金利は従前の1.25倍までという制限もあります。
この制限のため、例え金利が一定以上上昇したとしても、
返済額が一緒に急上昇することはありません。
一見安心に感じるこのストッパー機能ですが、
実は“諸刃の剣”でもあります。
それは金利が急上昇した場合には、
利息が毎月の返済額を超えてしまう可能性があるからです。
この場合返済額は全て利息の返済に充てられ、
元本が減らないだけでなく、利息の超過分も「未払利息」として返済額に上乗せされます。
もし返済最終日にもこれらの残額があるときには、
最終日に一括返済することになります。
少し難しいので
「金利上昇のペースが速すぎると、返済額の増加が金利上昇に追い付かない」
とイメージするといいでしょう。
2024年現在では、そこまで金利が上昇することは想定しにくいです。
しかし、もし未払利息が発生するような事態になったら、
繰り上げ返済や返済額を増額するなどして元金を減らしていく努力が有効です。
変動金利の決まり方
以上のように、変動金利は当初金利が低い分、
急激な金利上昇には注意が必要です。
リスクを回避するためにも金利動向の把握が欠かせません。
変動金利の金利はどのように決まるのか、ご存じでしょうか?
変動金利は各金融機関の「短期プライムレート」と連動しています。
短期プライムレートとは、優良企業向けの短期間融資金利です。
多少の金利差はありますが、
優良企業向け融資の金利ですので、優遇金利となります。
基本的に景気がいいと貸出し金利は上昇するため
景気が良くなると変動金利は上昇する、と覚えておくといいですね。
短期プライムレートは各銀行が独自に決定しています。
住宅ローンを組んでいる銀行で
常に最新の短期プライムレートと住宅ローン金利を確認したり、
住宅ローン関連のニュースをこまめにチェックするなどするといいでしょう。
金利上昇時の動き
金利上昇で返済額はどのくらい変化するのでしょうか?
固定金利と変動金利を比較してみました。
【共通条件】
・借入れ額2,500万円
・借入期間35年
・元利均等返済、ボーナス払いなし
【1:変動金利条件】
・当初金利0.8%
(以後、10年経過ごとに0.2%ずつ金利が上昇すると仮定)
【2:変動金利条件】
・当初金利0.8%
(以後、金利変動は一切なしとする)
【3:固定金利条件】
・適用金利1.2%
金利 | 総返済額 | 年間返済額 |
---|---|---|
1:変動金利(金利上昇) | 29,375,163円 | 約81~100万円 |
2:変動金利(金利変動なし) | 28,671,180円 | 81万9,168円 |
3:固定金利 | 30,628,542円 | 87万5,100円 |
変動金利を選択し、金利が横ばいで推移すれば
固定金利と比べて約200万円も総返済額を抑えることができます。
いっぽう金利が0.2%ずつでも上昇し続けると、
固定金利との差額は約125万円にまで縮まります。
とはいえ、総返済額は全期間固定金利よりも抑える結果になりました。
多少の金利上昇ならば十分に許容範囲ということでしょう。
ただし、今回は金利上昇のスパンを「10年ごと」と長くしてあります。
返済当初10年間を低い金利で返済できたため
総返済額を抑えることができたのだと考えられます。
返済当初から金利が上昇する場合には総返済額の負担増は免れません。
金利上昇時の繰り上げ返済は有効か
変動金利をより活用するために、
金利上昇までに5年間の猶予があることを利用したいです。
先のシミュレーションでは、
金利が上昇シミュレーション1と2で支払総額が大きく異なります。
そこで金利が低いうちに繰り上げ返済するとどうなるのか検証してみたいと思います。
【前提条件】
シミュレーション1において、5年後に100万円の繰り上げ返済を行う
総返済額:29,016,047円
繰り上げ返済額は100万円にも関わらず、
総返済額ではそれをしなかった場合と比較して約350万円もの差が出ました。
金利変動は先が長いほど読みにくくなります。
変動金利を選択し、金利が上昇する前に繰り上げ返済できれば、
返済効率としては一番いいかもしれません。
ただ、繰り上げ返済の意思を持っていても、
実際にできるかどうかは別の問題です。
また、想定以上に金利が上昇することも否定できません。
そういった側面から、
「固定金利だと返済できないけれど、変動金利ならばギリギリ返済できる」
といった選択方法は非常に危険です。
変動金利選択の際は返済額や預貯金に余裕を持っておくことが一番のリスク回避です。
変動金利のリスクと基礎知識まとめ
変動金利には確かにリスクがありますが、
見直しは5年ごと(5年間は返済額が変わらない)、
返済額の上昇は従前の1.25倍まで、といったルールがしっかり設けられています。
もし金利が上昇して負担が増えても、
許容できるかどうかは各家庭ごとに変わってくるため、
いくつかのシミュレーションで金利選択をすることをおすすめいたします。